スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第一話 7 偉大なる盗賊 

大司成の180度の方針転換により、試験場はまさに阿鼻叫喚の堝となった。次から次へと明るみになる不正行為の数々。それらが露見するたび、ある者は怒鳴りちらし、またある者は泣きわめいた。彼らに付き従っていた下僕や写手、巨擘たちは役人に哀れっぽく情けを請い、大司成を更に苛立たせた。

 不正を生業とする者たちとその雇い主があらかた追い出され、騒ぎが一段落すると、試験場はつい先刻、書吏チュンホが予見したとおり、実に閑散としていた。不正が横行していなければ、場所取りなど全く必要ないわけだ。

「さあ、それでは───始め!」

 大司成が自ら、試験の再開を告げる。広い丕闡堂には、蝉の声と、風に揺れる木々の葉擦れ以外に、聞こえるものはなにもない。ただ、時折誰かが摺るかすかな墨の音と、試巻の上を走る筆の気配が、そこが学識者の集まる場所であることを主張していた。
 やがて、ソンジュンが仕上がった答案を丁寧に折り畳み、立ち上がった。周囲の儒生たちは驚きと焦り、そして羨望のいり混じった視線でその背中を見送る。

「君のおかげで、久々にまともな試験に立ち会えたよ」

ソンジュンの提出した答案にざっと目を通し、隣のユ博士に渡してから、チョン博士は言った。

「当然のことをしたまでです」

“一天(一番目)”とユ博士が答案に記すのを確認しつつ、ソンジュンが答える。
やるからには最善を尽くす、それが彼の信条だ。答案を書き上げる速さも得点に加算される科挙にあって、誰かに遅れをとるなど、あり得ないことだった。

教官席に一礼し、下がろうとしたソンジュンにチョン博士が声をかけた。

「ところでそれは、新手の挟書(カンニングペーパー)か?」

え?とソンジュンが振り返る。博士の視線を追って自分の快子を見たソンジュンは、踝まであるその青い裾の一面に黒々と書かれた文字に気づき、愕然とした。
他の儒生たちが、こらえ切れないといった様子で忍び笑いを漏らしている。
ソンジュンは快子の裾を鷲掴みにすると、流麗な文字で記された漢詩に目を走らせた。


有識故に気概もあるが民の事情には無知

学識で米を買う者が盗賊なら

権力を買う者は忠臣か

こんな未熟者に力を与えれば人に害をなすだけ

偉大な盗賊となる者がいるとすれば

それは私だ



「人に害をなす未熟者とは、もしかして君のことかな?」

チョン博士の言葉に、どっと笑い声が起こった。その場にいる儒生たちの誰もが、彼と彼の掲げる正義や原則といったものに苦々しさを感じていたのだ。その笑いは快哉といってもよかった。

ソンジュンは唇を噛んだ。自尊心をここまでズタズタにされたのは初めてだった。足早に試験場を出ようとしたところで、何かに足を取られ、転びそうになる。
見るとそれは、長く地面を這う紐だった。間に、小さな竹筒が括りつけられている。件の“ワン殿”が、手元を隠しながらずるずると手繰り寄せているところをみると、その先はどうやら、試験会場の外へと繋がっているらしい。
おそらくそこには、この腹立たしくも見事な漢詩をソンジュンの快子に残した、芸をするクマがいるはずだ。

ソンジュンは怒りに任せ、男がまんまとせしめた竹筒をひったくった。男が押し殺した声で抗議するのに構わず、中に入っている挟書を引っ張り出す。小指の先ほどの文字でびっしりと書かれた、その几帳面な筆跡。

やはりだ。
一度見たら、忘れようもない。

ソンジュンは挟書を握り締め、丕闡堂の外へと向かった。

* * *

芸達者なクマは、難なく見つかった。
丕闡堂の塀と植え込みの間にしゃがみこみ、紐を手繰っている姿はまるで太公望だ。だがそこに渭水はなく、彼が釣ろうとしているものも、稀代の賢人とは比べるべくもない。

みしり、とソンジュンは足元の紐を踏み付けた。釣りを阻まれた太公望が、ゆっくりと顔を上げる。

「ワ…ワン殿?」
「君の答案を受け取ったからには、それなりの礼をしなくてはな」

ソンジュンの台詞を聞くやいなや、クマは身を翻した。一目散に逃げていく、浅葱色の道袍。

───逃がすか!

その子供のような背中を追い、ソンジュンも走りだした。




↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2011/07/24 Sun. 02:40 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 4  tb 0 

コメント

Re: 阿波の局さま

> ソンジュンが恋に堕ちた瞬間でしょうかv-221

そうきっと、それは恋v-219
後でよくよく見返してみると、ソンジュン、まだ目覚めて(笑)ないときでも、けっこう意味深というか、ちょっとそれは告白と違うんかい、っていうようなこと言ってるんですよねぇ~。もしかして無意識?

あまる #- | URL
2013/01/28 00:59 | edit

>一度見たら、忘れようもない。

ソンジュンが恋に堕ちた瞬間でしょうかv-221

>ユニといるときのヤツは「こんなのオレじゃないいぃぃ~!!」ってしょっちゅう 頭ん中で叫んでたに違いない。不憫と同時にちょっと萌え。(笑)

うふふ・・・。



阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/01/27 14:06 | edit

Re: ちびたさま

> あんなに綺麗な学士様を見てるのに、顔じゃなくて漢詩に惚れるって言うあたりが・・・。

ソンジュンは頭の悪いやつにはとことん冷酷なので(^^ゞ
その分、一度認めた人間にはとことん敬意を払ってくれるんではと。

ユニといるときのヤツは「こんなのオレじゃないいぃぃ~!!」ってしょっちゅう
頭ん中で叫んでたに違いない。不憫と同時にちょっと萌え。(笑)

あまる #- | URL
2012/05/02 19:32 | edit

あまるさま

イ・ソンジュンはこの漢詩に惚れたのですねえ。

あんなに綺麗な学士様を見てるのに、顔じゃなくて漢詩に惚れるって言うあたりが・・・。

この回で1、2を争う程つぼな場面、それはこの追いかけっこの場面です。
今まで街中での追いかけっこなんかしたことないだろうに、あの足取りの軽さったら。

相手の事が気になって仕方ない。
イ・ソンジュンさん、それは恋の始まりよって誰か教えてあげてくださいな。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/02 16:38 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/10-048d2679
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。