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拍手コメのお返事です。 

*ちゃむ様*

いつもコメありがとうです(^^)
大野くんのドラマ、ワタシも見てますよぉ。嵐の中では櫻井くんがお気にだったんですが、
最近はリーダーが急浮上してます(笑)メガネに萌え。
梅ちゃん先生、ハマってるんですね!(笑)堀北真希ちゃん好きなので、ちょっと気にはなってたんですが~
3丁目の夕日のイメージが強いせいか、昭和の雰囲気が似合いますね、彼女は(^^)

*●ん様*

拍手ありがとうです(^^)
コロはほっといても魅力的なキャラなので、実は書く時はビクビクだったりします(笑)
こんなんじゃねぇ~とか言われたらどーしよ、とか。←小心者
なので、温かいお言葉、嬉しかったです。ありがとうございますぅ(T_T)ダァ~
コロは細かい萌えシーンが多いので(しかも地上波ではなぜかカットされてることが
多いという(^^ゞ)リキ入れて書きます。今後ともよろしくです。





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2012/06/01 Fri. 02:13 [edit]

category: 未分類

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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第八話 10 熊女 

そこは巷で評判の店、“水多拍手〈スダバクス〉”。女人のように化粧をし、天竺風の派手な衣装に身を包んだ怪しげな男が店主を務めるその茶房は、連日、若い娘たちで賑わっている。
といっても、彼女たちの目当ては漢方臭い健康茶や甘い団子の類ではない。
店主自ら客を見る“絵札占い”が不思議とよく当たる、という噂に、悩みを抱える多くの女たちが引きも切らず訪れているのである。

兵曹判書の愛娘、ハ・ヒョウンもまた、その一人だった。
卓子の上にずらりと並べられた札に、先程から じっと目を凝らしている。まるでそうすれば、裏返しになっている絵札の表側が見えてくるとでもいうように、その表情は真剣そのものだ。
後ろでは、いつものごとく、彼女の遊び友達であるウンジュとミンジ、そして下女のポドゥルが固唾を飲んで見守っている。

「これと、これにするわ」

ヒョウンはようやく、2枚の札を選んだ。占い師は赤い羽扇で顔を隠したまま、手のひらを絵札の上でしばし泳がせた。そして、爪を黒く染めた指で、ゆっくりと絵札をめくり始める。

「早く教えて。あの方のお家から、求婚の使いが来るのはいつなの?」

占い師は羽扇の隙間からちらりと顔を出すと、目を閉じたまま、歌うように言った。

「とっとと目をお覚まし~バカ女。そんなことはこの世の終わりが来ても有り得ないよ~」
「な………!」

ヒョウンの顔色が変わった。

「ちょっとあんた!この私が誰だかわかって言ってるの?!」

怒りに顔を歪めて立ち上がった彼女を、ポドゥルが慌てて宥める。

「お嬢様、どうか抑えて。この占い師、気が口に集まるらしいんです。ズケズケと口汚く罵るときほど、当たってるって噂ですよ」
「そうそう、10年も子宝に恵まれなかったお姉さまも、この占い師に見て貰った途端、妊娠したんだから」

とミンジが言えば、ウンジュも

「お父様に愛人がいることも、バッチリ言い当てたのよ!」

と声を潜めて囁く。
ヒョウンは渋々といった顔で、すとんと腰を下ろした。

「───じゃあ、どうすればいいの?」

にんまりと、占い師の顔にブキミな笑みが広がった。

蜘蛛が、網に掛かった蝶に近づくときはあんな顔をしそうだ。
店の一角から、彼女たちの様子を遠目に眺めていたヨンハは、思った。

「まったく、うぶなのかそれとも真剣にバカなのか……あんな絵札で人の心が変えられると、本気で信じてるのかな」

小さく笑いながら、ヨンハは手にしていた なつめ茶を置いた。甘過ぎて、とても飲めたものではなかった。

「でも、ほんとによく当たるんですよ。お陰で、このあたりの茶房はどこも商売上がったりですって」
「一日に、ほんの数人しか占ってくれないそうなんです。だからしょっちゅう、通う羽目になっちゃって」

両脇に座るエンエンとソムソムが、はしゃいだ口調で答える。流行には目がない妓生たちに連れてこられ、たいして美味くもない薬草茶と菓子に少々辟易していたヨンハだったが、偶然にもなかなか面白いものが見られた。
カランに夢中な兵曹判書のご息女はどうやら、あの堅物に相当痺れを切らしているらしい。

「おしゃべり〈スダ〉しながら、占って貰えるんです。最高でしょ?」
「ははぁ、なるほど。それで“スダバクス”なんだ。じゃあ私もひとつ、占って貰おうかな」

立ち上がる振りをしたヨンハを、エンエンがぐいと腕を取って引き止める。

「まあ、ヨンハ様が?」
「誰なんです?んもう、いったいどこの誰の気持ちを変えたいっていうんですか?」

ふふっ、と笑って、ヨンハは言った。

「私だよ。自分自身の気持ち」

またすぐそうやってはぐらかして、と二人の妓生は唇を尖らす。
ヨンハは、何気なく卓子の上の灯りを手にとった。酒盃ほどの小さな器の中で、蝋燭の炎がゆらゆらと揺れている。

「すぐ女に飽きちゃうんだ、私って男はね。どうせすぐ飽きるのに、毎回女を口説くために金を使うのはもったいないだろ?だからそれさえ変われば、いくら金をつぎ込んだって、無駄にはならない」

ヨンハの向かいに座っていたチョソンが、広げていた漢詩集を ぱたりと閉じて、彼を見た。

「いつか、そんな女性に出会えたら、必ず紹介してくださいね」

うん?と眉を上げるヨンハに、彼女は微笑んだ。

「ヨンハ様が飽きることのない女性……どんな人なのか、見てみたいわ」

確かに興味はそそられるだろう、とヨンハは笑った。この自分でさえ、想像もつかないのだ。
どれだけ長く一緒にいても飽きない女など、果たしてこの世に存在するのだろうか?
そんな女がもしいたら。
どんなことがあっても、決して離しはしないだろう。どれだけ苦しめられても、どれだけ金を使わされても、後悔などしないだろう。なのに。
満たされたことのない心が、そのまま小さく凝り固まってしまいそうで、ヨンハは時々不安になる。
このまま、何にも熱くなれず、何にも心を動かされず、すべてが川の水のように自分の横を通り過ぎていくのを、ただ眺めて一生を終えるのかと。

「お前の邪魔をしているのは熊だ。ああ、なんたる間抜け。男は、目の前にまさに求める女がいるのに、気付いてもいない……なんと情けない」

少し離れた席では、店主がもっともらしい顔つきで熊の絵の札を指差し、首を振っている。
占い師の顔を食い入るように見つめていたヒョウンは、たちまち大きな目に涙を溜めた。

「私のことが、見えてないっていうの?そんなことって……!」
「おやおや、なんてことだ。自分で絵札を引いておいて、メソメソ泣く馬鹿がいるか」

言いながら、占い師は4枚目の札を捲った。そこにあったのは、竹林に吠える堂々とした虎の絵だった。

「その絵札の意味は?」
「虎が、大きな口を開けて狙っている……つまり、危険極まりない運勢だということだ」

ヒョウンは目を見開き、身を乗り出した。

「じゃ……じゃあ、これから私はどうしたらいいんですか?」

最初の横柄な態度は完全に消えていた。いつだって自分が兵曹判書の娘だということを忘れたことはないヒョウンだったが、今このときばかりは別らしい。
占い師は手のひらを上にして、ヒョウンに差し出した。ヒョウンが、その上に人指し指を乗せる。裏返した絵札の上でそれをすうっと滑らせてから、占い師は一枚の札を捲った。

「ヨモギとニンニク……」

占い師はふうっと息を吐き出すと、深く頷いた。
この国に古くから伝わる伝説に、熊女〈ウンニョ〉の話がある。人間になりたいと願った熊と虎が、神に祈ると、神はヨモギとニンニクを与え、それだけを食べて百日間穴にこもれと言った。虎は耐え切れずすぐに穴を出ていってしまったが、熊はヨモギとニンニクを食べて穴にこもり続けた。そして百と一日目に、美しい人間の女になった。
熊女は神の息子と結ばれ、二人の間に生まれた子、檀君〈タンクン〉が、後に古朝鮮の建国の王になったという。

「絵札は、女になれと告げておる……。その鈍感な男に、自分はれっきとした女であることを示せばよろしい」
「どうやって?」

占い師はヒョウンの耳元に口を寄せ、何事か囁いた。ヒョウンは途端に目を剥き、すっくと立ち上がって叫んだ。

「イヤよ!そんなはしたない……絶対に嫌!」

「なに?」「何をしろって?」と、驚いたウンジュとミンジが興味津々で訊ねるが、ヒョウンは憤慨したまま、つんと顎を反らした。

「知らなくていいわ!どうせやらないんだから!」


*   *   *


「やらない?どうして今更そんな!」

方や、筆洞の貰冊房。店主ファンは、久々に出向いてきたキムの若様の口から意外な言葉を聞き、慌てふためいていた。

「金のためなら、何だってやってきた若様でしょうが!いったい何があったんです?」

まさかその恋文の相手に自分が恋をしてしまったとも言えず、ユニは申し訳ない気持ちでファンに言った。

「恋文以外の、他の仕事をくれないかな。休みの間に、全部仕上げるから」

ファンは弱り切った顔で、頭を抱える。

「かあぁ~!若様は あたしに死ねと?あそこのお嬢様のおっソロしい性格を知らないからそんなことを!」
「……どうしようもないだろ。だって、書けないんだから」

愚痴を言いたいのはこっちだ。ユニだって、仕事だからと割り切ろうとはしてみたのだ。だが、いつもなら湧き水のようにするすると出てくる詩句が、筆を取り、紙を前にしても全く浮かんでこないのだから仕方ない。

「恋文なんて、書いたことも、貰ったこともないし」

俯いて帯紐を指で弄びながら、書けない理由をユニはそんな風にはぐらかした。だがそれは事実でもある。

「仕事じゃあないですか!そんなこと関係ないでしょ!こっちは儲けなんてほとんど無いのに、若様のためにと……」
「恋文は一通で3両だって聞いてるけど」
「そんなもの、あたしの手元には残りゃしませんよ。ぜーんぶ、左議政の坊ちゃんのところに行っちゃうんですから。覚えてるでしょ?成均館に入る前に渡した50両!」

ファンの言葉に、ユニの帯紐をいじる手がぴたりと止まった。

「左議政の……坊ちゃん?どういうこと?」

あっ、とファンが声にならない声を上げた。口止めされていたのは明らかだ。ユニの表情にみるみる怒気が混じるのを見て取って、そのまま黙りこむ。
ユニは唇を固く引き結び、貰冊房を飛び出した。
成均館からここまで抱えてきた薬包や風呂敷包みも、置いたままだった。






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2012/06/06 Wed. 18:49 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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第八話 11 芙蓉花 

人々でごった返す雲従街の通りを、ユニは足早に歩いて行く。
胸にはただ、ソンジュンに対する腹立たしさとやり切れなさが渦巻いていた。

どうして、こんなことをするのがよりによって彼なんだろう。
他人にどう思われようが、別に構いやしない。でも彼にだけは、惨めに見られたくないのに。かわいそうな子だと、思われたくなんかないのに。
自分が恥ずかしくて、体中を搔き毟りたいような衝動を、彼女はただ、前だけを見つめてひたすら歩き続けることに変えて堪えた。

だからユニは、気付くことができなかった。
通り沿いの店で、ヨンハやエンエンらと反物を眺めていたチョソンが、ぱっと顔を輝かせて自分に声を掛けようとしていたことに。
そして、素通りされてしまった彼女が、落胆のあまりその場に凍りついたように動けなくなっていたことにも。

「姐さん、どうかしたの?」

雑踏の中に消えていく細身の背中を見つめながら、じっとそこに佇んでいるチョソンに、ソムソムが声を掛ける。
「幽霊でも見たんですか?」と笑うエンエンの肩を、ヨンハが こらっ、と叩いた。

「昼間っから幽霊の話なんてするんじゃないの!」
「ええ~?」
「───もう帰るわ」

ぽつりと、チョソンが言った。

「え?服の仕立てに行くんじゃないんですか?」

訊ねるソムソムに、チョソンは小さく微笑んだ。だがその微笑には、深い悲しみが滲んでいた。

「どれだけ気飾っても、振り向いて貰えなかったら……もう、服のせいにできなくなるもの」


*   *   *


自室に戻ったソンジュンは、休み明けに行われる旬頭殿講の準備をしようと『書経』を開いた。だが、彼の目がそこにある文字を追うことはなかった。
成均館から帰ってきて以来、ソンジュンが一人になって考えることといえば、ユンシクのことばかりだった。
あのときインスの放った言葉が、頭から離れない。

『同じことをしているのに、何故お前は良くて、私は駄目なんだ?』

同じではない。インスがユンシクにしたことと、自分のしたことが、同じであるわけがない。
だが、それはあくまでソンジュンの中でだけのことであって、結果としては───つまり、ユンシクにとっては、結局同じことなのではないだろうか?

施しなどでは、絶対にない。だが、善意とも違う。ユンシクに対して多少の後ろめたさがあるのは、それが、彼のためを思ってしたことではないからだ。
あれは、いや、あれだけに限らず、ソンジュンが今まで彼にしてきたことは皆、自分自身のためだった。
ソンジュン自身が、ユンシクの友となりたくて、彼にとって、必要な人間になりたくて。

だが自分がどういう気持ちでしたことであっても、それが、彼の自尊心を傷つけていたとしたら。

薬包の束を渡したときのユンシクを、彼は何度も思い返した。あのときのユンシクは、どんな顔をしていただろう。彼が素直に受け取ったことにただ安堵して、そこにあったはずの彼の本当の気持ちを、見落としてはいなかっただろうか。

目を合わそうともせず、去っていったユンシクの後ろ姿。それを思うにつけ、自分が、彼の心から締め出されてしまった気がして、たまらなかった。
休暇中であることがもどかしい。早く成均館に戻って、彼と話したい。そうすれば、きっと───。

「……ちゃん、坊ちゃん!」

本の頁に指を掛けたまま、ぼんやりと空〈くう〉を見つめていたソンジュンの耳に、スンドルの声が響いた。

「お客様が見えてますよ」

客?
ソンジュンは眉間に皺を寄せた。わざわざ休みの日に訪ねてくるとは、いったい誰だろう。

部屋を出ると、母屋の方から男たちの笑い合う声が低く聞こえてきた。陽はまだ落ちておらず、外は明るかったが、父の誕生日の宴はもう始まっているらしかった。あの様子では、かなりの人数が集まっているようだ。後で自分も、挨拶に行かなければならないだろう。

靴を履き、庭先に目をやったソンジュンはそこに、浅葱色の道袍を着た、線の細い後ろ姿を見た。
思いがけぬ訪問に、彼は相好を崩した。

「どうした?何か用でもあったのか?」

肩に手を掛け、振り向かせた。

「ソンジュン様!」

こちらを向いて微笑んだ顔は、だが期待していた人のものではなかった。ソンジュンの顔から、一瞬にして笑みが消え、そのまま固く強張る。

「これは……驚きました。そんな姿で」

ソンジュンは本当に驚いていた。芙蓉花───ヒョウンの後ろ姿が、あまりにもユンシクと似ていたからだ。
華奢な身体つきをしているといっても、本来は男だ。男装した女人とは明らかに違うはずなのに、それを間違えるなんて、いくらなんでもどうかしている。

「これでも、両班の娘ですから」

ソンジュンの困惑を他所に、ヒョウンは恥じらうように頬を染めて、言った。

「人目もありますし……ここは、成均館よりも入りづらいんです」

ふふっ、と笑って肩を竦める。彼女から視線を外したソンジュンが、小さく溜息をつくのにも気づかぬ様子で、ヒョウンは被っていた笠や、道袍を脱ぎ、手早く畳んだ。麻の道袍の下からは、目にも鮮やかな真紅のチマが現れた。

「ちょうど、お屋敷にお戻りだと聞いて、いてもたってもいられなくて。一目だけでも、お逢いしたかったんです」
「……今後、このようなことは、どうかお控えください」

冷え冷えとした声で、ソンジュンは言った。

「このような行動は、男女有別の教えにも反し、僕に対しても無礼でしょう。用があれば、使用人を通して───」

言い終わらぬうちに、ヒョウンの両手がソンジュンの首をがっちりと掴んだ。一瞬、絞め殺される、と思ったソンジュンは ぎょっとして(正直、それくらいヒョウンの形相には鬼気迫るものがあったのだ)彼女の手首を掴み、引き剥がした。

「何を……」

言いかけたソンジュンは ふと、ヒョウンが右手に紙を握り締めているのに気づき、それを取り上げようとした。だが彼女はぎゅっと握り込んだまま、離そうとしない。「やめて、ダメ!」と抵抗するのに構わず、強く引っ張った。

ビリッと音をたてて千切れたものには、赤い梵字が記されている。どうやら護符か、まじないの類だ。
不愉快極まりない。ソンジュンは表情をますます険しくした。

「ああどうしよう……少しの間でも相手の身に付けろって言われたのに……」

当のヒョウンは、御札が破れたことにかなり動揺しているらしく、おろおろと目を泳がせている。
いい加減うんざりして、彼は言った。

「貴女は、僕の心を得ようとこんなことを?」

ヒョウンは声もなく俯いた。その顔が、耳まで赤く染まっている。

「もしそうなら、やめてください。そんな札で、人の心が動かせるとは思いません。それに僕は、まじないなどという愚かな行為は大嫌いです。そんなものを信じる人間とは、たとえ友人といえど、付き合おうとは思わない」

ヒョウンの、大きく見開いた目にみるみる涙が膨れ上がり、溢れた。だがそれを見ても、ソンジュンの心は冷えきったままだった。
彼はまた、ユンシクを思い出した。芙蓉花の涙には全く心が動かないのに、彼の涙を見たときは、いや、たとえ実際には涙を流していなくとも、彼が心の内で泣いていると感じたときは、どうしてあれほど平静ではいられなくなるのだろう。なぜあれほど、胸が痛むのだろう。

「お帰りください。貴女とはもう、二度と会うことはありません」

一礼し、ソンジュンは踵を返した。その背中を、ヒョウンの震える声が追いかけた。

「じゃあ、どうすればいいんですか?私だって、愚かな自分が、嫌でしょうがないんです。まさか自分が、こんな馬鹿な真似をするなんて、思いもしませんでした。本当はこんなこと、したくなかった。でも、気がついたら、貴方の前で情けない自分を晒してしまうんです」

立ち去ることができなかったのは、ソンジュンにも身に覚えがあるからだ。
頭ではわかっていながら、そのときの衝動に任せて、馬鹿な真似をしてしまう。普段の自分なら絶対にしないようなことでも、ある人が絡むと、我を忘れてしまう。
ここに引き合いに出すのはおかしなことかもしれないが、ソンジュンにとってのある人とは、それはキム・ユンシク以外にはいなかった。

「貴方に出会ってから、毎日幸せでした。貴方を想うだけで、心が踊って、貴方の姿を見たら、胸がときめいて。まるで自分が、物語の中にいるみたいで。でもそのうち、気付いたんです。ソンジュン様は、私と同じ気持ちではないと」

振り返ると、大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら、それでも、ソンジュンの目を見て微笑むヒョウンがいた。

「でも、それでもいいんです。貴方が私のことを嫌いでも、私は、貴方が好きだから。大好きだから」

ソンジュンは、ヒョウンに冷たい言葉を投げつけたことを少し後悔した。
人は、そもそも愚かな生き物だ。彼女は、ただ己に忠実で、純粋なだけだ。誰かに嫌われたり、憎まれたりするのではなく、愛される種類の人間だ。
むやみに傷つけていいはずはなかった。

何か言葉をかけてやらなければ、と思い、一歩足を踏み出す。ヒョウンは、はっとして後退った。自分の気持ちを正直に言ってしまったことが、今更ながら恥ずかしくなったのだろう。くるりと背を向けて、足早に歩いて行く。

どうするべきかと少し考えたが、ソンジュンは結局、その後を追った。




*******************************************************************
うう~。八話……長い……(^^ゞ
七話までは9回でうまいこと収まってたのに、ここにきてなにゆえ~?

次回には終われると思います、たぶん。






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2012/06/07 Thu. 14:20 [edit]

category: 第八話

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第八話 12 すれ違う心 

ガシャン、と騒々しい物音が庭先に響いた。下女の慌てふためいた声がそれに続く。

「も、申し訳ございません、お嬢様!」

ヒョウンを追ってきたソンジュンが見たのは、地面に散乱した料理とおぼしきものの残骸と、粉々になった食器。そして、その中で立ち尽くすヒョウンの背中だった。
下女が、平謝りしながら彼女の汚れたチマを拭うが、ヒョウンはただ肩を震わせ、されるがままになっているだけである。

「ヒョウン?お前、ここで何を……!」

庭に張り出した露台の上から、兵曹判書ハ・ウギュの狼狽した顔が覗いた。驚くのも無理はない。我が娘が、顔は涙でぐちゃぐちゃ、服は食膳とぶつかったせいでシミだらけ、という両班の子女にあるまじき姿で、前触れもなく左議政の家の庭先に現れたのである。
しかも、そこはまさに宴の真っ最中。よりにもよって朝廷の高官たちが一堂に会したその場所で、好奇の目に晒されているのだ。

(まずいな。このままでは)

ソンジュンは庭の真ん中で棒立ちになっているヒョウンに歩み寄った。
ふと見下ろすと、震える彼女の指先に、僅かだが血が滲んでいた。恐らくは、飛び散った食器の破片で怪我をしたのだろう。急に彼女が幼い子供のように見え、気の毒になった。

露台からの刺さるような視線を感じながら、ソンジュンはヒョウンの腕を取った。一刻も早くこの場所から連れ出さねばと思ったのだ。
だが、彼女はソンジュンの目を避けるように横を向いたまま動かない。あんなやりとりのあった後にこの醜態だ。気持ちはわからないではなかったが、こんなところでもめ事を起こせば、どんな噂がたつかわからない。男である自分にはたいした影響はないが、嫁入り前の娘にとっては、その後の人生を左右するほどの傷にもなり得る。
足に根が生えたように動かないヒョウンに苛立ちはしたものの、そのまま放っておくことはできなかった。

───仕方ない。

ソンジュンは身を屈めた。

「えっ……?」

ヒョウンの戸惑った声が、ソンジュンの耳元にかかる。両腕に抱き上げた彼女の身体は、さほど重くはない。彼は露台でひそひそと囁き合う高官たちを一瞥し、足早にその場を後にした。


通用門の近くまで来て、ヒョウンを降ろした。彼女の両目はまだ涙で濡れていたが、先程の頑なな表情とは違い、ただ ぼうっとソンジュンを見つめている。

「大事にはならないでしょう。心配はいらな……」

言いかけて、ソンジュンは言葉を飲み込んだ。いきなり、ヒョウンが彼の頬に口付けたからだ。
ヒョウンはソンジュンから身を離すと、石のように固まっている彼に向かい、涙声で言った。

「私には無理です。こんなことをされて……諦めるだなんて」


*   *   *


「あー……左議政様も、ご存知なかったようですね。もっとも、私が知ったのもつい最近のことですが」

それまでの和やかな宴とは一転、そこに漂う妙な空気を払拭しようとしてか、周囲を伺いながら口を開いたのは兵曹判書だった。

「最近の若者は、我々とは違います。その、むやみに叱ればいいというものでもなく……」

ちら、と上目遣いで左議政イ・ジョンムを見る。が、彼は黙って酒盃を傾けるばかりである。

「いずれにしても、若い今だけのことですよ。ははは、は」

ウギュは背中に嫌な汗を流しつつ笑った。ジョンムは視線を一点に据えたまま、にこりともせずに杯を重ねている。
兵曹判書の乾いた笑い声は、しんとした露台に虚しく散った。


*   *   *


門を出たところで、ソンジュンは立ち止まり、ヒョウンに告げた。

「スンドルが、ご自宅までお送りします。お気をつけて」

長衣〈チャンオ〉を頭から被ったヒョウンは、しとやかに頭を下げ、微笑んだ。
なんだか妙なことになったなとソンジュンは戸惑った。彼女を遠ざけたつもりが、逆に更に踏み込ませてしまったような気がする。女心は全くもってわからない。

だが、とふとソンジュンは思う。
そもそも何故彼女を、辛辣な言葉で傷つけてまで自分から遠ざけようとしたのだろう。
芙蓉花は美人だし、家柄も申し分ない。多少思慮に欠ける部分はあるかもしれないが、それも愛すべき女人らしさと思えばたいした問題ではない。こんな風に一途に想われれば、悪い気はしないのが普通の男だろう。
だが彼の中で何かが、それを留まらせている。芙蓉花を見るたび、どうしても彼女と引き比べてしまう存在がある。

「坊ちゃん、あれ……きれいな学士さまじゃないですか?」

スンドルの声に振り向くと、植え込みの陰にユンシクの姿が見えた。今度は本物だ。
だが彼は、ソンジュンと目が合うなり、さっと踵を返して来た道を引き返していく。

「スンドル。お嬢様をお送りしろ」

遠ざかるユンシクに目を据えたまま、言った。そのままヒョウンを振り返ることもなく、ソンジュンは彼の後を追った。

「僕に用があるんだろう?どうして引き返すんだ」

角を曲がったところでユンシクに追いついたソンジュンが、その背中に問う。だが彼は聞こえなかったかのように前を歩き続ける。

「キム・ユンシク!」

思わず肩を掴んでいた。振り向いた目が、射るようにソンジュンを見返した。

「今まで、楽しかった?」

声が震えている。ソンジュンの胸はまた、激しく乱れた。咄嗟に、返す言葉に詰まったほどだ。

「何も知らずに、成均館の学生になれたと喜んでるぼくを見て、腹の中で笑ってたんだろ?」
「何の話だ」

50両、とユンシクはすかさず言った。

「貰冊房のファンから、全部聞いたよ」

ソンジュンは天を仰いだ。まったく、商人というのはどうしてああ口が軽いんだ。

「あんたの顔なんて───もう二度と見たくない」

立ち去ろうとするユンシクの腕を掴み、引き留める。

「待て。話を聞いてくれ」

ユンシクはソンジュンの腕を振り払うと、自嘲気味に笑った。

「そんな借りがあったって知ってたら、もっと大人しく言うことを聞いてたのに」

ソンジュンは思わず かっとして、言った。

「大人気ないことを言うな。僕は立て替えただけだ。返せば済むことだろう」
「じゃあどうして黙ってたんだ。ぼくに言うべきだろ?」
「言ったら受け取ったか?」
「断ったさ!高利貸しに借金してでも、受け取ったりしなかった。知ってる?ぼくにだって、自尊心はあるんだ。あんたが守ってるのは自分の自尊心だけ。ぼくの自尊心は、そうやって踏みにじるんだ!」

後頭部を殴られたような衝撃が、ソンジュンを打ちのめした。今にもこぼれ落ちそうな涙を、必死で我慢しているユンシクを前に、彼は一言も言い返すことができなかった。

はっ、と笑って、ユンシクは言った。

「つまりはぼくに、同情したんだ。あんたにとってぼくは、無力で貧しい、哀れな存在で、誰かが差し伸べる救いの手に、喜んですがりつく人間だって───そう思ったんだろ?」

違う、と言いたかった。だがユンシクの、ソンジュンを刺し貫くような視線がそれを許さなかった。

「あんたに、掌議を責める資格はない。いや、あいつの方がまだましだよ。少なくともあいつは知ってる。自分が、悪人だってことをね」

唇を噛み締め、ユンシクはソンジュンに背を向けた。
遠ざかっていくその背中を、ソンジュンはただ、黙って見送るしかなかった。





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2012/06/10 Sun. 18:11 [edit]

category: 第八話

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第九話 1 帰宅 

自室に戻ったソンジュンは、文机の前に座ると、片肘をついたままぴくりとも動かなくなった。
机の上にはもう本すら開いていない。目はただ一点を見つめてはいるものの、そこには何も映っていないようである。夕食に何か食べたいものはないかと訊きに来たスンドルは、敷居を跨ごうとした足を中途半端に浮かせていたが、結局、部屋に入ることはできなかった。いつもは無遠慮なスンドルさえも声を掛けるのを躊躇うほど、彼は深い物思いに沈んでいた。

貰冊房で、ファンから仕事の依頼を受けるユニもそれは同様だった。
「これが求婚書で、これが祭祀の祝詞で」と巻紙を次々と卓の上に積み重ねるファンが、時折聞いているのかと問いたげに、ユニの顔を覗きこむ。つい先刻、ここを飛び出していくまではいつもと変わりなかった若様が、今は肩を落とし、ぼんやりとあらぬ方向に視線を投げている。ファンは首を振り、腕に抱えた巻紙をまた一本、積み上げた。

「それからこれは恋文の代筆……おっと、うっかりしてた。これは若様はできないんでしたっけ」

白々しくそう言って巻紙を戻そうとしたファンを遮り、ユニはそれを手に取った。
真っ白な雁皮紙に、花模様の留紐。女が男に宛てて選んだものか。いや、あるいは逆かもしれない。
皮肉なものだとユニは思った。女でもあり、男でもある自分には、どちらであったにせよ書けないことはないだろう。ただ、拒んでいただけだ。男ではなく女としての自分が、誰かの、ソンジュンへの想いを綴ることを。

「金になる仕事なら、何でもやるよ」

虚ろな目をしたまま、そう言ったユニに、ファンは愛想よく笑った。

「もお、なら最初からそう言ってくださいよ。じゃ、あとはこれ。注釈本の筆写ね。それから……」

言いながら、ファンは巻紙の山を高くしていく。
そうだ。何だってやらなきゃ、とユニは必死で気持ちを切り替えようとした。
今まで一つ屋根の下で同じように暮らしていたから、何か勘違いをしていたのかもしれない。
所詮、ソンジュンとは住む世界が違うのだ。
それに、ソンジュンを好きになったからといって、彼の前であくまで男である自分にはどうなるものでもない。
こんな気持ちは早く忘れなければ。そして今までどおり、目の前にある仕事をがむしゃらにこなすのだ。
生きていくために。

水車小屋で女の姿に戻り、両腕にどっさり仕事と荷物を下げたユニが南山村に着いたのは、もう日が落ちてからだった。
たくさんの荷物をここまで持って帰ってくるだけでもへとへとだったが、それ以上にユニの足取りを重くしていたのは、未だ胸にちらつくソンジュンの顔だった。

今にも崩れそうな石積みの塀を過ぎ、自宅の庭に入るとそこには、洗濯物を干している母の後ろ姿があった。
愚痴や弱気を漏らすことの多い母だが、家事に忙しくしている彼女の動作はいつもきびきびとしていて、そんな姿を見るのがユニは好きだった。
いつもの母だ。ユニが、どんな格好をしてどこで何をしていようが、母は変わらずここにいて、普段どおり立ち働いている。干した服の皺を伸ばす母の手を見たとき、それまでユニの中で張り詰めていた何かが、ふいに緩んだ。彼女は荷物を置くと、そっと母の背中を抱き締めた。

一瞬、母は驚いたように動きを止めたが、それがユニだとわかると、静かな声で言った。

「───家にも入らないで、何してるの」

ユニは黙って、母の肩に頬を押し付けた。懐かしい母の匂いを嗅ぐと、喉の奥が詰まって、視界が滲んだ。
前で重ねたユニの手を、母が握り締める。包帯は外していたが、大射礼で負った傷に気づいたのだろう。母の気配がさっと変わるのがわかった。振り向いた母は、眉を潜めて娘の顔を覗き込んだ。

「お前、何かあったの?」

ユニは潤んだ目を細めて、微笑んだ。

「何も。ただ、嬉しいだけ。久しぶりに家に帰れたから、すごく嬉しいの」

母は何も言わず、ユニを抱き寄せた。母の手が、幼い子をあやすように優しくユニの背を叩いてくれる。
堰を切ったように、涙が溢れだした。
ユニはいつの間にか自分より小さくなった母の身体を抱き締めて、思い切り泣いた。


その晩の食卓には、この家では見たこともない程のご馳走が並んだ。薄い粥とキムチしか乗せたことのない卓が、焼き物や煮物で溢れかえっている。
だがそんな食卓を目の前にしても、というより、こんな豪勢な食事が出てきたので尚更だったのかもしれない。
母と弟の顔は晴れなかった。
ユニには、二人の気持ちがわかりすぎるほどわかった。
こんな食べ物や質の良い薬を持ち帰るために、いったいどれだけの苦労をしているのかと。そう問いたげに自分を見る視線が、すべてを語っていたからだ。

ユニは、母とユンシクの椀に肉やナムルを乗せてやりながら、明るく笑った。

「私のこと、すごく可愛がってくれる茶母がいてね。いいって言うのにたくさん包んで持たせてくれたの。さ、早く食べて」

その笑顔を見て、母とユンシクはようやく匙を手に取った。二人の明るい顔が見たくて頑張っているのに、こんな風に心配させては元も子もない。
とても喉を通る心境ではなかったが、ユニも汁椀を取り、口に流し込んだ。


*   *   *

ジェシンは、額に脂汗を浮かせながら、腹の包帯を巻き直していた。
自宅に戻ったのはいつ以来だろう。こうも放蕩をしていると、ここも自分の部屋とはまるで思えない。
必要以上に豪奢な金張りの屏風や、絹の脇息を見るにつけ、何故か街で奴婢の子供に菓子をあげていたユンシクを思い出し、ジェシンは苛立った。さっきから包帯が上手く巻けないのも、きっとそのせいだ。

「くそっ!」

腹立ち紛れに脇息を蹴飛ばし、包帯はきれいに巻くことを諦めた。傷口だけ覆えたらいいとぐるぐる縛っていると、部屋の障子がいきなり開いた。ジェシンの部屋に断りもなく入れるのは、屋敷の主である大司憲、ムン・グンスだけだ。ジェシンが顔をしかめたのはもちろん、傷が痛んだからではない。だが、しかめっ面なら相手も相当なものだった。

「愚か者が。傷口を締め付ければ治るとでも思っているのか?」

ジェシンは服の前を合わせ、立ち上がった。差し挟んだ文机の上に、父は手にしていた盆を置いた。

「使いなさい。大射礼で怪我をしたと医者に言って、処方してもらった」

白い器に入った薬草を ちらと見下ろして、ジェシンはすぐに父から顔を背けた。薬くらい、使用人に持って行かせれば済むものを、わざわざ自らお出ましとは。また例のごとく説教が始まるのかと思うと、うんざりした。

「キム・ユンシクという儒生とは、あまり親しくするな」

父は唐突に、そう切り出した。だがジェシンは驚きはしなかった。父の行動規準に照らし合わせれば、それくらい予想はつく。だが彼は敢えて訊いた。

「何故です?出世に役に立たない、南人だからですか」

ぴくりと目尻を痙攣させて、父は声を荒げた。

「いい加減にしないか!いつまでそうやってひねくれている気だ!」
「貴方こそいつまで、老論の傀儡でいる気ですか!」

口元を震わせ、ジェシンは言った。

「あの日俺は、兄上と共に死にました。父上は兄上の死を黙認して、老論から地位を守り、そして同時に、二人の息子を見捨てたんだ」

やはりこんな屋敷に戻ってくるべきではなかった。足早に立ち去ろうとしたジェシンの背に向かい、父が投げつけるように言った。

「何とでも言うがいい。そうして得た力で、私はお前を守ってみせる」

無言で立ち尽くすジェシンに、父は続ける。

「キム・ユンシクと親しくするのは危険だ。兵曹判書は、彼を紅壁書だと疑っている」

咄嗟に、昼間のことが思い出された。ユンシクの後をつけていた私兵らしき男。兵曹判書の手の者だと言っていたが、探っていたのはそれか。だが、いくらなんでもあのユンシクが紅壁書とは。

「どうしてです?なんであいつが」
「キム・スンホン……お前の兄と共に金縢之詞を運び、犠牲になった男だ。キム・ユンシクは、彼の息子なのだ」

衝撃が、ジェシンから言葉を失わせた。彼は瞬きするのも忘れ、父の顔を見返した。


*   *   *


夕食の後。帰る途中に買い求めた簪を母にあてがってやりながら、ふとユニは尋ねた。

「お母様、お父様のどこが好きだった?」

鏡の中の母の顔は、穏やかに微笑んでいる。

「簪一本買ってくれなかった人のどこが良くて、老論の実家を捨ててまで一緒になったの?」
「何を言ってるの」
「家族を捨ててお父様を選んだこと……後悔したことはなかった?」

俯いた母は、かさついた手の甲の皺を伸ばしながら、「後悔ならしてるわ。毎日ね」と、呟くように言った。

「お前を成均館に送り出したこと、毎日後悔してる。あの時、実家と縁を切ったりしなければ、自分の娘にこんな苦労をかけることはなかった。……後悔ばかりよ」

そう言う母も、ユニには想像もつかない程の苦労をしてきたはずだ。なのに母の口から、父の悪口を聞いたことはなかった。自分を責めることはあっても、姉弟の前で、父を責めたことは一度として無い母だった。

ユニは母の肩にそっと手を置いて、頭をもたせかけた。じんわりとした温もりが、母の背中から伝わってくる。
それが心地良くて、ユニは目を閉じた。





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2012/06/15 Fri. 22:51 [edit]

category: 第九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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2012-06
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