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第八話 4 深夜の儒生たち 

「キム・ユンシクは、女なんだろ?」

虫の音だけが響く夜更けの縁側。ジェシンの顔を覗き込み、ヨンハが密やかな声で訊ねる。

「何の話だ」
「とぼけるなよ。私はク・ヨンハだぞ。白粉の匂いだけで下着の色を当てる女林〈ヨリム〉、そしてお前とは十年来の友人」

ふん、とジェシンは鼻で笑った。

「ご立派なこった。それで?」
「しゃっくりだよ。お前は、しゃっくりに耐えられず外に出てきた。つまりこの部屋には女がいる。イ・ソンジュンは誰が見たって間違いなく男だ。となると答えはひとつ。テムル───キム・ユンシク」

ヨンハには確信があるのだ。何かしらの証拠があるわけではない。自分自身の勘と、観察眼がそう言っているに過ぎない。だがそれは、どんな物的証拠よりも彼自身が信頼しているものだった。

その眼とアタマ、もっと別のことに使えよ。

胸の内でそう呟きながら、コン、と手の甲でヨンハの頭を小突く。
もう寝ろ、と言って、ジェシンは立ち上がった。

「目ぇ開けたまま寝言言ってんじゃねぇよ。癖になるぞ」

中二房の扉に手を掛けると、背後からヨンハが歌うように言った。

「いつまで、女と一緒の部屋で我慢できるかな?」

知るか。

少なくともあいつは、単なる遊びだとか好奇心で、こんな男だらけの場所に飛び込んできたわけじゃないだろう。
それは、今までのあいつを見てりゃわかる。
大の男ですら逃げ出したくなるような状況でも、歯を食いしばって立っていた。そこにはきっと、理由があるはずだ。女のあいつが、男としてここにいなきゃならない理由が。
だったら、俺は───。

扉を開けた。
そこには、眠っているユンシクがいた。
伏せられた、長い睫毛。丸い頬と、小さな鼻。そして、この月明かりでもそうとわかる、淡い桃色の唇。

ダメだ。もう女にしか見えない。

というより、どうして今まで何の疑いも持たず男だと思い込んでいられたのか、そっちの方が不思議だった。
ヒクッ、とまた例のしゃっくりがジェシンを襲う。
はっとして、はだけていた服の衿を掻き合わせた。お世辞にも女の前でするべき格好ではないことに、今更ながら気付いたのだ。
いや待て。寝ている間にまたあられもない姿にならないとも限らない。念のため上に羽織るものを、と棚から薄物の快子〈ケジャ〉を引っ張りだした。
と、その拍子に、足元に何かがはらりと落ちた。拾い上げたそれは、一枚の手巾だった。そこに控えめに刺してある小花の刺繍を見てジェシンは思い出した。いつだったか、チンピラに絡まれていた娘を助けたときに、渡されたものだ。

『恩返しさせてください』

そう言って、差し出した。まだ怯えの残る指先が、微かに震えていた。
身なりは粗末だったが、言葉遣いや立ち居振る舞いで、両班の娘だということは何となくわかった。
印象的だった、秀でた額と白い肌。そして、真っ直ぐに相手を見つめる黒い瞳。

あっ、と思った。

初めてキム・ユンシクを見たとき、なんとなく何処かで見た顔だとは思ったのだ。結局思い出せずにそのまま忘れてしまっていたが、間違いない。ジェシンが助けた、あのときの娘だ。

俺に恩返しする気でこんなとこに潜り込んだのか?いやまさか。だがしかし……。

ただでさえ混乱していたのに、ますますわけがわからなくなってきた。
とにかく寝よう。考えても埒があかない、と横になろうとしたジェシンだったが、今度は、すぐ隣にユンシクがいると思うと、いつものごとく布団の上に無造作に寝転がることもできない。

くそぅ、いったいどうすりゃいいんだ。

考えた末、ジェシンは布団を捲り、夏場だというのにそれを蓑虫のように身体に巻きつけるという暴挙に出た。
止まらないしゃっくりは、口の中に手巾を丸めて突っ込み、やり過ごす。

く……苦しい。

が、ヨンハに怪しまれずにこの部屋で眠るためには仕方がない。
とはいっても、この状態で果たして眠れるのか?
ユンシクの寝相の悪さは相当なものだ。もし少しでもこっち側に来られたら、どうしたらいいんだ。
ふと、首を巡らせて背後のユンシクを見た。

ぽろりと、ジェシンの口から手巾がこぼれ落ちた。

先刻まで自分の寝床で真っ直ぐに寝ていたはずのユンシクが、いつの間にか向こうを向き、ソンジュンの背中にぴったりとくっついて、すやすやと寝息をたてている。

そんな衝撃的な光景が、そこにはあった。




そして一方、部屋に戻ったヨンハは。

「キム・ユンシクめ……上手く逃げたな」

横たわった夜具の上で天井を見つめ、一人呟いている。

「女の身で成均館に入学し、王と法を愚弄するとは……」

ふと、思った。
だがそれの、どこがいけない?
法で禁じられてはいるものの、別に人を殺したわけじゃない。
身分や家柄さえ金で買える世の中だ。性別を偽るくらい、なんだっていうんだ?

むくりと、起き上がった。
許せないのは、キム・ユンシクがこの自分まで騙そうとしていることだ。
女を知り尽くした稀代の遊び人、ヨリム。そう呼ばれるこのク・ヨンハ様を騙そうというのだ。あんな可愛い顔をして。
そんなことが許されるか?
いいや、たとえ王が許しても、それはあり得ない。

「コロさえいなきゃ、今日でカタがついたってのに」

悔しさに眠れぬまま、壁の向こうを忌々しげに見つめるヨンハだった。






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2012/05/01 Tue. 00:51 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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第八話 5 帰宅日の朝  

斎直の叩く太鼓の音が、朝靄の中に響く。

「起寝〈キチム〉!起寝!起きてくださーい!」

朝か……。

まどろみの中にいたソンジュンは、腕の中に感じる心地良い温もりに、しばらく目を開けられずにいた。
起きなければいけないのはわかってる。でももう少し。
この手に戻ってきた、あの天女の余韻を感じていたい。
天女の温もりを。
天女の。
てん……

うっすらと瞼を開けたソンジュンが見たのは、自分の胸に丸くなって顔を埋めているジェシンの、ボサボサ頭だった。

がば、と身を起こした。
ぱちぱちと瞬きする。
なんだこれは。今度は悪夢を見てるのか?

人差し指で、恐る恐る、丸まった布団の上からジェシンをつついてみた。

「……先輩」

反応は無い。さらにつついた。

「先輩」
「失せろ!」

怒鳴り声と同時に、ジェシンが跳ね起きた。
起き抜けで状況が飲み込めないのは向こうも同じらしく、ぼうっとした目が間近でソンジュンを見返した。
互いに無言のまま見つめ合っていると。

「コロ先輩、どうしてそっちに?」

ジェシンの声で目を覚ましたらしいユンシクが、部屋の隅から声を掛けてきた。
途端、ジェシンは弾かれるようにソンジュンから離れた。

「服もちゃんと着て、布団までかぶって」

四つん這いで近寄ってきたユンシクをあからさまに避け、ジェシンは夜具の上でじりじりと後退る。

「ち、近寄るな」
「先輩?」

ユンシクが訝しげに眉を顰めた。

「瘧(おこり)……瘧にかかったらしい」
※マラリアのこと

瘧!?

ソンジュンは ぎょっとしてジェシンを見た。ユンシクはといえば「瘧ですか?」と怖いもの知らずにもジェシンの額に手を伸ばし、熱を診ようとする。びくりとしたジェシンはそれを避けて更に壁際へ飛び退った。

「ああ、だから、だから俺に近寄るな」

布団を胸元まで引っ張り上げ、部屋の隅っこでかたかたと身を震わせているジェシンの様子は、確かにただごとではない。

まさか僕はそんな重病人を、一晩中抱き締めて眠っていたのか?

急に気分が悪くなってきた。
ジェシンからそっと離れ、横を向いて密かに自分の額に手のひらを当ててみる。が、幸い熱はなく、ホッとするソンジュンだった。


*   *   *

その朝、厠へ行ったユニは、後から入ってきたヨンハと顔を合わせた。
間に低い衝立があるとはいえ、こんなところで誰かに会うとやはり落ち着かない。大あくびしているヨンハを横目に見ながら、ユニは手早く衣服を整え、個室を出た。

「昨夜は、ちゃんと風呂には入れたか?」

入り口近くの個室で用を足していたヨンハが、すれ違いざま、声を掛けてきた。
昨夜のことを思い出し、ユニは危ない危ない、と気を引き締めた。このしれっとした顔に気を許したら、こっちの命がいくつあっても足りなくなる。

「いいえ。先輩のお陰で大変でした」
「どうして。何かあったのか?享官庁で」

白々しい、と思いながらも、ユニは答えた。

「享官庁には行かなかったんです」
「行ってない?なんで?」
「先輩からあんな話を聞いた後ですよ。女の幽霊が、男が来るのを待ち構えてると思ったら、怖くていけませんよ」

なんせぼくはテムルですからね、と肩をそびやかす。

「だから先輩と一緒に行水でもしようと思ったのに、留守でしたね。ああ、先輩は享官庁には絶対に行っちゃダメですよ。だってそうでしょ?女の恨みといえば、先輩も相当なはずだもの」

ヨンハの顔色が変わった。

「ちょっと、ちょっと待て、テムル」

慌ただしく前を掻き合わせながら、ヨンハが個室から出てきた。ユニは素知らぬ顔で視線を逸らす。

「確かに昨夜、享官庁で明かりを見たんだ」
「享官庁へ行ったんですか?」

殊更に目を丸くして、ユニは言った。ヨンハがはっと口元を抑える。用を足した後だということも忘れているらしい。
ユニはヨンハを手招きした。長身を屈めたヨンハに近づき、彼がいつもやっているのを真似て、耳元で囁く。

「ほらね……幽霊が明かりを灯して、先輩を呼んだんですよ」

目を剥いたヨンハは、そのまま石のように固まった。顔から血の気が引いている。
その肩をぽんぽんと叩いて、ユニは言った。

「これに懲りて、女遊びはほどほどにしてくださいね。じゃ」

昨夜はヨンハのお陰で大変な目に合わされたのだ。これくらいの仕返しは許されるだろう。
厠を後にしながら、ユニはぺろりと舌を出した。


成均館には毎月8日と23日に、自宅に帰ることのできる帰宅日が設けられている。
だが、入館した最初の月は帰宅を許されないため、その日は新入生たちにとって入学以来初めての帰宅日となった。

休暇中といえど、成均館の学生であることに変わりはない。賭け事はもちろん、狩りや釣り等の殺生は一切禁止。
成均館に戻る際に、金品や贅沢品を持ち込むことも禁じられた。
朝から尊経閣がいつにも増して賑わっているのは、休暇明けに旬頭殿講〈スンドゥジョンガン〉が行われるためである。
王の面前で行われる試験で流石に不可は避けたい儒生たちが、自宅で勉強するための写本を手当たり次第に持ち去っているのだ。

「家に帰るぞー!」

妻子を残して寄宿舎生活をしているドヒョンを始め、私服に着替えた儒生たちの顔は皆生き生きと明るい。ユニももちろんその一人だ。久しぶりに母と弟の顔が見られると思うと心が弾んで、自然と顔が綻ぶのを抑えることができなかった。

「おいテムル、嬉しいのは家に帰ることか?この金か?正直に言ってみろ」

青い巾着袋をお手玉のように手の上で弾ませて、ドヒョンが言った。それは、休暇中の小遣いという名目で成均館の儒生全員に支給されるもので、中には、貧しいユニには目を瞠るほどの額の金子が入っていた。

「女房子供がいるわけでもなし。金に決まってんだろ」

ヘウォンがいつものごとく干菓子を片手に言うと、すかさずウタクが「子曰く……」と人差し指を立てる。その口にドヒョンが巾着袋を押し込んだので、後はふがふがとよく聞き取れなかった。
ひとしきり笑って、ユニは言った。

「ぼくはね、お金を持って家に帰れるのがすーっごく嬉しい」

こいつぅ、とドヒョンがユニを小突く。ヘウォンやウタクも次々と羽交い絞めしたりくすぐったりするので、ユニは笑いすぎてお腹が痛くなった。


そんなキム・ユンシクの姿を、東斎の縁側からじっと見つめる視線があった。
ジェシンである。

「あいつ……一体何者なんだ」

ドヒョンやヘウォンたちと無邪気に笑い合う姿は、そこらにいる儒生たちと何ら変わるところはない。
学堂にすら通えぬ女の身で、よくもこの成均館に入学できたものだと感心するが、ユンシクがああやって男たちに少しも違和感なく溶け込んでいることに、ジェシンは驚きを隠せない。
あれが本当に、チンピラに情けを請い、青白い顔で跪いていた娘と同一人物なのだろうか?
大した度胸してやがる、とジェシンは首を振った。あのときは、とてもそうは見えなかったのに。

縁側から腰を上げたジェシンの前を、ヨンハが塞いだ。いつもの彼らしくもなく、何やら切羽詰まった顔をしている。

「教えてくれ。昨夜、本当に、冗談抜きで、享官庁には誰もいなかったのか?」

またその話か、とジェシンは無視を決め込もうとするが、ヨンハは引き下がらない。必死の形相で、ジェシンの襟首を掴む。

「ちゃんと答えろって!」

目にうるさくかかる前髪を指先で払いのけ、ジェシンはヨンハをじろりと見遣った。

「しつこいんだよ。幽霊でも見たような顔しやがって」

ヨンハが絶句して、表情を強張らせる。襟元を掴むその手をひっぺがし、ジェシンはさっさと東斎を後にした。






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2012/05/09 Wed. 21:07 [edit]

category: 第八話

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第八話 6 乖離 

成均館から儒生たちの姿が消える帰宅日は、清斎内一斉所持品検査の日でもある。儒教の教えを遵守し、質素勤勉を旨とする成均館では、学則により持ち込みを禁じられた物品が数多くある。だがその分、教官たちの監視の目をかいくぐり、学生たちにより密かに持ち込まれた品もまた多いのだった。

「ですからね、私はこのように考えるわけですよ、ユ博士。学生たちが家から持ち込みたいというものを、高価だからという理由だけで、我々が禁じて良いものかと……」

酒に賭け札、春本、老荘や仏教等異端とされる禁書の類。
博士ユ・チャンイクが、清斎から没収された山のような品々を一つ一つ改めている傍らで、大司成は先程から、肉付きの良い手をしきりに揉み絞っている。

「たとえばです。ある一人の学生が家から青磁の壷を持ち込んだとしましょう」
「───それで?」

ユ博士は手を休めることなく、訊き返す。

「彼はそれを眺めつつ、両親に会えぬ寂しさを紛らわし……そうしているうちに、はっと気づくんですよ。親代わりである我々の存在に。彼はそのことに深く感謝し、壷を是非とも私に譲りたいと言うわけです。いやいや流石にそんな高価なものを受け取るわけにはいきません。そこで私はその壷を国王陛下に……」

じろり、と、ユ博士が眼光鋭く大司成を見返した。
大司成は言いかけた言葉を飲み込み、「何か間違ってますか?」と隣のチョン博士の背中をつついた。

「チョン博士は、私と同意見だと思いますよ」

ねぇ?とその顔を覗きこんだ大司成は、自分を振り仰いだ彼の顔を見て、きゃっ、と叫び声を上げた。
チョン博士の右目には、何やらおかしな筒のようなものがくっついていた。更にはその筒の中に、丸い硝子玉らしきものが入っているので、巨大な目玉が飛び出しているようにも見える。

「ま、またそんな奇怪なものを!」

大司成が顔をしかめると、チョン博士はにっこりと笑って、耳の掛け紐を取り、奇妙な目玉を外した。

「ああ、これは……驚かれましたか?」
「いったい何なんですか?それは」
「旬頭殿講の際に、陛下に差し上げようかと思いましてね」

ほぉ、と大司成が感心したような声を上げた。

「さすがはチョン博士。一枚上手ですな。来るべき人事異動に向けて、もう根回しですか」

どれどれ、とチョン博士の外したそれを、自分の目に当ててみる。
覗き込むなり、視界いっぱいにチョン博士の顔がその髭を数えられるほど近くに迫ってきて、大司成は再びきゃっと声を上げた。

「遠くからでも不正がわかる───まさしく千里眼というやつですよ」

大司成が気味の悪いものを見た、と言わんばかりにぽいとそれを放る。
ふと手を休めて、ユ博士が言った。

「もしや、チョン博士はご存知か?今度の旬頭殿講に陛下がどんな問題を出されるのか」

まさか、とヤギョンは笑う。

「あの気まぐれな陛下の御心など、誰もわかりはしませんよ」

そう言って、彼はまた片目を瞑り、“千里眼”を覗き込んだ。


*   *   *

王が、卓子の上で七巧〈チルギョ〉の箱をばらりとひっくり返した。
傍らに立つ領議政チェ・ジェゴンが、訝しげに眉を寄せる。

「陛下、それは一体……」
「試験問題だ」

一見、不規則な形に切り分けられたように見える七つの木片を、王は慣れた手つきで並べてゆく。その手元で、木片は魚になり、風車になり、と、瞬く間に姿を変えた。

「その……七巧を解くのでございますか」

王は笑って、木片の一つを手に取った。幼い頃、一人遊びの友は大抵この七つの木片たちだった。
博士キム・スンホンはどうやら大人になってからも、この知恵遊びが好きなようだったが。

「驚くな。そなたが解くわけではない。次の旬頭殿講で、儒生たちに出す試験問題だ」

思えば、友は根っからの教育者であったのだ。こうして鬼籍に入ってさえ、自分や愛弟子に難題を出し続ける。
この問題を解くのを、土の下に眠る友が待っているなら、立ち止まるわけにはいかない。
今このときに、成均館に彼の息子がいるという巡り合わせも、決して偶然ではあるまい。

「この問題が解けたなら───問題を解いた者が、たとえあの老論の息子、イ・ソンジュンだとしても、臣下たちは余の考えを止めることはできぬはずだ」

静かな言葉の中に強い決意を込めて、王は言った。


*   *   *

清斎の通用門を出たところで、人待ち顔で立っているソンジュンがいる。
淡い山吹色の道袍に笠を被り、支度はすっかり整っているようだが、いつまでもそんなところでぐずぐずしているのは、目当ての人物がなかなか現れないためだ。

と、ようやくそこへ、ユンシクが金子の袋を手に にこにこしながら門をくぐってきた。
ソンジュンは いかにも、たった今通りかかった風を装ってその行く手を塞いだ。

「相変わらずだな。成均館の儒生になっても、何も変わっていない」

何のこと?と見返す目に向かい、ソンジュンは続けた。

「小遣いに浮かれて、大切なものを忘れている」
「君には、関係な……」

言い終える前に、ソンジュンは持っていた薬包の束を差し出した。

「病気の弟がいるんだろう?」

ほら、と促すと、ユンシクは戸惑ったように目を泳がせたが、受け取った。

「よく、覚えてたな。そんなこと」

当たり前だ。あんな強烈な出会いは、忘れたくても忘れられるものじゃない。ソンジュンの常識の範疇では理解し難い彼の行動が、すべて病気の弟のためだったと思えば尚更だ。

「………せっかくだから、貰っとく」

素っ気ないが、唇を尖らせてそう言ったユンシクに、ソンジュンは少しホッとして微笑んだ。
昨夜酒房の前であんな別れ方をして以来、お互いなんとなく気まずく、ろくに口をきいていなかったのだ。
そのまま屋敷に帰っていたら、気になって旬頭殿講の準備どころではなかっただろう。

「どうやら、一歩出遅れたようだな」

背後からそんな声がして、ソンジュンは振り返った。そこにいたのは、掌議ハ・インスとその取り巻きたちだった。
インスの半歩後ろで、ビョンチュンが鼻のあたりを押さえながら、凶悪な顔でユンシクを睨みつけている。どうやら昨夜、二人が派手に殴りあったという噂は本当らしい。

「持って帰れ、キム・ユンシク」

インスが言うと、ビョンチュンが「ほら」とユンシクの足元に薬包の束を投げた。ビョンチュンにつつかれ、コボンも後ろから風呂敷包みを ぽいと放る。

「掌議……これは何です?」

硬い声で、ユンシクが尋ねた。「私の気持ちだ」とインスは薄く笑った。また何か揉め事か、と目ざとく勘付いた儒生たちが、周囲に集まり始めていた。

「私たちが成均館を空ければ、食堂に残った食べ物は腐り、捨てることになる。その後は泮村に運び出されて、牛の餌になるだけだ。だがキム・ユンシク、お前も知っての通り、これらは皆、民の血税だ。それを、牛の餌にするのは忍びないだろう?」

インスはソンジュンに視線を移し、言った。

「我らは近い将来、官吏となる」
「何の話ですか」

その目を鋭く見返しながらソンジュンが訊き返すと、インスはまた微かに笑った。

「まあ聞け。それで私も考えてみたのだ。この成均館で、誰が一番残飯処理に相応しいかとね」

さっ、とユンシクの顔色が変わった。インスの背後、西斎の連中から失笑が漏れる。

「貧しい暮らしが、残飯によって助かる者。そして、くだらない自尊心だけで、施しを断るようなバカな真似をしない者───。つまりお前だ、キム・ユンシク」

聞くに耐えず、ソンジュンはユンシクの前に進み出た。

「彼に失礼でしょう。やめてください」
「何故だ?同じことをしているのに、お前は良くて、私は駄目なのか?」

馬鹿な、とソンジュンは猛烈な怒りに拳を震わせた。
自分とインスのしたことが、同じであるはずがない。絶対に違う。
もしも同じだとしたら、この場で自分の腕を切り落としてやる。そうでもしなければ、一生自分自身を許すことはできないだろう。

「大射礼で優勝したら、成均館の学生として認めろと言っていたな、キム・ユンシク。これが私の返事だ。お前は成均館の学生だ。なら、これくらいの贅沢はしていい」

そうは思わないか、とインスが周囲に同意を求めると、ビョンチュンがすかさず「そうですとも!」と言って下卑た笑いを浮かべた。
と、いつからそこにいたのか、ジェシンが儒生たちを撥ね退けながらずかずかとやってきたかと思うと、いきなりインスの胸ぐらを掴んだ。

「黙りやがれ」

おおーっと、とビョンチュンが声を上げる。

「イ・ソンジュンばかりか、ムン・ジェシンまでご登場か。キム・ユンシク近衛隊の総出動だ」
「流石は蕩平組だな」

ひひひ、とコボンが笑う。

「やめてください、先輩」

ユンシクの静かな声が、ジェシンを制した。今にもインスに殴りかからんばかりだった彼の腕が、ぴたりと止まる。
ソンジュンはユンシクの横顔を見つめた。

あのときと同じだ。
雨の中、たかが50両のために嘘はつかないなどと、愚かにも彼に言ってしまった、あのときと。
一切の感情の消えた、静まり返った顔。まるで、目の前でぱたんと音をたてて扉が閉ざされたような、そんな気がした。あの時も、そして、今も。

「ぼくなら、大丈夫です」

そう言って、ユンシクはインスに向かい、頭を下げた。

「ありがとうございます、掌議」
「お前、何を言ってる!」

ジェシンが声を荒げた。足元の薬包や風呂敷包みを一つ一つ拾い上げるユンシクに、ジェシンは苛立ちを隠さない。

「そんなもん拾うな!」
「いいえ。いただいていきます。我が家には、大きな助けになりますから。───感謝します、掌議」

人垣を掻き分け、足早に立ち去るユンシクの後を、ソンジュンが追う。肩を掴んで、振り向かせた。
ユンシクは無表情に目を逸らしたまま、ソンジュンを見ようともせず、すぐに踵を返した。

関係ない、と。
むくれた顔でそう言われる方が、はるかにましだったのだということを、ソンジュンは知った。

「分かったか、イ・ソンジュン、ムン・ジェシン」

去っていくユンシクを見ながら、為す術もなく立ち尽くしていたソンジュンの背に、インスが冷ややかな声を浴びせた。

「党派を超えた結束だと?お前らとキム・ユンシクとでは、所詮無理なのだ。老論であれ少論であれ、お前たちは生まれてから一度も食うに困ったことなどない、坊ちゃん育ちだからな」

インスの言葉に、激昂したジェシンが拳を振り上げる。その腕を、カン・ムが掴んだ。白くなるほど握り締められた手が、掴まれたまま小刻みに震えている。
ふん、と鼻先で笑って、インスは言った。

「これからは仲良くしようじゃないか。似たもの同士で」

カン・ムの手を乱暴に振り払い、ジェシンは吐き捨てるように言った。

「その口を閉じろ、インス。臭ぇんだよ」

頬を歪めたまま、大股で伝香門へと向かうジェシンに、とばっちりはごめんだとばかり儒生たちが道を開ける。
どこまで卑怯な男なんだ、と、ソンジュンはぐらぐらと煮え滾る怒りを堪えるのに必死だった。
インスの狙いは明らかだ。蕩平組の結束。そんな、彼にとって許し難い事態を、今度は内側から崩そうという魂胆だろう。
そんな手に、安々と乗るものか。

だが。
去り際、ソンジュンと一瞬たりとも目を合わそうとしなかったユンシクが、気になった。




************************************************
あまるですどうもこんにちわ。

この回で王様が遊んでる、温泉旅館なんかに時々置いてあるやつ(タングラムっていうらしい)
今回調べて初めて知ったんですが、もとは中国に古くからあったパズルらしいです。
てっきり最近のものかと思ってた。

意外とやり始めると夢中になりますよね、アレ(笑)木の触り心地もいいし。
幾何学にも通じるところがあるそうで。
ウチの子にも小さいときからやらせとけば良かったかも。もう遅いけど(^^ゞ






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2012/05/17 Thu. 09:07 [edit]

category: 第八話

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第八話 7 父と子 

屋敷に入ったソンジュンをまず出迎えたのは、広い敷地内を埋め尽くさんばかりに並べられた祝いの鉢植えだった。
見慣れぬその光景に、眉を顰める。

「坊ちゃん、お帰りなさい!」

太った身体を鞠のように弾ませて、スンドルがぺこりと頭を下げた。

「この鉢は?」

尋ねると、スンドルはちちち、と舌を鳴らして、言った。

「まったく、これだから男の子は育て甲斐がないって言われるんですよ。今日が何の日かご存知ないので?」

話している間にも、朝廷の名だたる役職の者たちから贈られた祝いの品や鉢が、続々と運び込まれてくる。
下働きの者たちがばたばたと行き交う邸内は、いつもとは違ってせわしない空気に包まれていて、まるで自分の家ではないようだった。

「父上の誕生日だ」
「なんだ、知ってるじゃないですか」
「今までは届いた鉢を必ず送り返していただろう」

長く左議政という地位にある父の元には、何やかやと理由をつけてはあらゆる方面から贈り物が届くのが常だった。だが、ソンジュンの知る限り、父がそういうものを受け取ったことは一度としてなかった。
官僚への賄賂がごく当たり前のように授受されている朝廷にあっては、むしろ珍しいとも言える父の、そういう清廉潔白な部分にソンジュンは深い敬意を抱いていたのだ。

それが、一転してこの状態とは、どういうことなのだろう。

「お父上も、きっと年を取られたのよ」

穏やかな声がして、ソンジュンは振り返った。前掛けで手を拭いながら、母が柔らかな微笑みを浮かべてこちらへ歩いてくる。スンドルが深々と頭を下げた。

「夕刻には、お客様までご招待しているの。お陰で準備に大忙しだわ」
「父上が?」

ますますいつもの父らしくない。
民の逼迫した暮らしを他所に、夜毎派手な宴を催す享楽的な一部の両班たちを、ソンジュン以上に嫌っていた父である。困惑顔の息子に向かい、母がこちらの方が重要だとばかり、ソンジュンの手を取ってにこやかに彼を見上げた。

「さあ、よく顔を見せて頂戴。こんなに立派な若君が、私の息子だなんて。ふふ」

いつもの母の笑顔だ。そういえば見るのは久しぶりだった。ソンジュンも知らず、笑みが溢れた。

「母上。父上は、今どこに?」
「お部屋よ。早く行っておあげなさい。今朝からずっとお待ちかねだったんだから」

部屋の前まで来ると、父の打つ碁の音が聞こえてきた。家をそんなに長く離れていたわけではないのに、何故か懐かしささえ感じる。一礼して足を踏み入れると、父はちらと目だけ上げて息子を見、「遅かったな」と言った。

「申し訳ありません。支度に手間取ってしまって」

父は、黙ってもう一つの碁笥を すっと前に押し遣った。ソンジュンは微笑むと、碁盤の前に腰を降ろした。

「誕生日に宴とは、驚きました。初めてのことなので」
「そんな大袈裟なものではない。昨年仕込んだ酒が上手く出来たのでな。皆で飲もうというだけだ。───それより」

パチン、と硬い音をたてて、父が乳白色の石を打つ。

「随分と弓の腕前を上げたようだな」
「まだまだ父上には及びません」

謙遜ではない。この囲碁にしてもそうだ。相手をするようになってから随分経つが、父との対局で、ソンジュンはいまだ一勝もしていない。
父は笑うと、胸に溜めていた息を吐き出すように「蕩平組か……」と呟いた。

「陛下は、心から満足されたご様子だった」

碁石を持つソンジュンの指先に、僅かに緊張が走った。
だが意外にも、父は「よくやった」とさらりと言った。

「今は、王を敵に回して良いことなどない」

父の声音に不穏なものが混じっているのを、ソンジュンは敏感に嗅ぎとっていた。

「いつかは、敵になるということですか」
「怖いか?」

微かに口角を上げ、父が問う。
ソンジュンは碁盤に目を落とした。白と黒の対比が目に鮮やかだ。互いの領土は、まだ互角だった。

「───怖いのは王ではなく、道を誤ることです」

碁笥に差し入れていた父の手が、ジャリッと音をたてた。

「朝鮮は両班の国だ。かつて倭や清との戦が起こった際、王朝が何をした?民を捨て逃げるか、他国にひれ伏しただけだ。そのたびに我ら両班が、国と民を守ってきたのだ。その我らを、徒党を組んでいると断罪し王に全権力を集中させるのが、蕩平策の正体なのだ」

同じことを、以前にも聞いた。ソンジュンの最も尊敬する父が、よりによって今朝、彼を腹の底から怒らせた男と全く同じことを口にしている。そのことが、ソンジュンを辛くさせた。

「お前は、そんな大義名分に惑わされるような愚か者ではないだろうが───誤解を招くような行動は慎め」
「誤解とは……どういう意味でしょうか」

父の渋面が、ソンジュンを見返した。

「どこの馬の骨とも知れぬ南人や少論とは、同室生といえど親しくすべきではない」
「私には、そのような同室生はおりません、父上」

即座に否定した。父の眉が僅かに上がった。

「貧しくとも向学心に溢れ、常に自分より家族を大事にする庠儒キム・ユンシク。そして、義のためには決して躊躇しない庠儒ムン・ジェシン───。いつも、二人から多くを学んでいます」

それと意識したことはなかったが、事実だった。同室になったのがあの二人でなかったなら、ソンジュンにとって成均館での寄宿生活は単に己の忍耐力を試す苦行の場でしかなかっただろう。
そして、共に戦ったのが、あの二人ではなかったら。
おそらくは大射礼も、円点を得るための試験の一つに過ぎなかったはずだ。
あんな、胸が熱くなるほどの喜びと感動は、決して得られることはなかったに違いない。

「父の命令だ。これ以上言わせるな」

ぴしゃりと、父は言った。聞く耳を持たぬとはまさにこのことだ。
膝の上に置いた手を握り締め、ソンジュンは黙り込んだ。父に理解してもらえないことよりも、父の口から、ユンシクやジェシンを蔑む言葉を聞いたことが、ただ悲しかった。






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2012/05/23 Wed. 16:31 [edit]

category: 第八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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第八話 8 尾行 

市場通りの人ごみの中を歩いてゆく、浅葱色の道袍。
ともすると見失いそうになるその小さな背中を、ジェシンは一定の距離を保ったままこっそりと追っていた。
我ながら何をやってるんだと思うが、無論、最初はそんなつもりはなかったのだ。

インスの手酷い嫌がらせは今に始まったことじゃない。だが、またいつかのときみたいに、一人で泣いていたら、とつい気になって、東斎を出たユンシクの後を追った。
両手に荷物を下げたほっそりとした背中はすぐに見つけた。が、かといって何と声をかけてやったらいいのか。
女の慰め方なんて知るわけがない。男だと思っていたときでさえ、かけてやるろくな言葉も思い浮かばなかったのに。
などとあれこれ考えていたら、結局同室生の後をつけ回しているだけという、何だか妙なことになってしまった。

家で待つ家族に土産でも買いたいのだろう。ユンシクは通りに立ち並ぶ店をなんとなく眺めながら歩いている。
ふと、彼女の足が止まった。菓子屋の前だ。ジェシンは慌てて、数軒離れた金物屋の店先に身を隠した。
鍋を見るふりをしながらそっと伺うと、にこにこしながら店の女将と話している横顔が見えた。

しかし女ってのはどうしてああ甘いもの好きなのか───と思って見ていると、ユンシクは折角買った菓子を店先で物欲しそうにしていた奴婢の子供たちにそっくりあげてしまった。
子供は、おそらく姉弟なのだろう。二人ともぼろをまとい、痩せこけた体は垢じみている。埃まみれで白っぽくなっている姉の頭を、そっと撫でてやっているユンシクの表情はそれまで見たこともないほどに優しく、穏やかで、ジェシンは胸を衝かれた。

儒学を学ぶ儒生といえど、三徳のひとつである仁の心を実践できる者は少ない。裕福な家の者ならまだしも、自らも貧しければ尚更だと思っていた。だが違うのだ。
認めたくはないが、インスの言っていたことは事実だ。生まれたときから食うものに困ったことのない自分たちのような人間には、飢えた民の心を想像することはできても、真に理解することは難しい。同じ痛みと苦しみを知るユンシクであればこそ、あの姉弟の心を我が事のように感じることができるのだろう。

表情を凍りつかせたまま、足元に投げられた包みを拾い、インスに礼を言ったユンシク。
そんなもん拾うな、捨てちまえと怒鳴った自分。

何もわかっちゃいなかったのだ。あのときあいつが、何を思ってそうしたのか。
憤るばかりで、想像すらしてやれなかった。

───畜生。

ジェシンは唇を噛んだ。
何が紅壁書だ。
結局お前もインスたちと同類じゃねぇか───。

頭を思い切り殴りつけられたような気分で、ジェシンは菓子屋を後にするユンシクを見つめた。
すぐそこに見えるのに、先刻よりもずっと遠くに感じる。
今日はきっとこのまま、声をかけられずに終わるのだろう。

ジェシンは一歩、足を踏み出した。

それでも、追わずにはいられなかった。


少女たちの、華やいだ声が通りに響いている。
ユンシクが次に立ち寄ったのは、女物の小物の店だった。両班の娘たちが、帯留めや髪飾りを互いの服にあてがいながら、きゃあきゃあと笑い声をたてている横で、ユンシクはさして迷うこともなく、一本の地味な簪を買った。
勘定を待つ間、彼女が手に取ってじっと見ていたのは、赤い細布〈テンギ〉だった。
女たちが、編んだ髪の端を隠すのに長く垂らしている飾りだ。

ジェシンは、袂に入っていた手巾を取り出し、そこに目を落とした。布の端に施された小花の刺繍を、親指でなぞってみる。こういうものの手の巧拙はジェシンには判断がつかないが、少ない色味でも、一針一針、丁寧に刺しているのはわかる。

いま男物の道袍を着て、短く切った髪を髷に結い、笠の中に仕舞い込んでいるユンシクも、中身は同じ女だ。
事情はわからないが、好きで男装しているわけではないのは明らかだった。
本当なら、隣で笑いさざめいている娘たちの中に混ざっていたっておかしくないはずなのに。

俯き加減で、ぽつんと立つその細い肩を見ていると、ジェシンの胸は知らず、痛むのだった。

結局、ユンシクは細布は買わず、勘定を終えるとそそくさと店を後にした。
やや間を置いて、ジェシンはその店先で、ユンシクの見ていた細布を手に取った。
真紅の地に、薄桃色の牡丹が二つ。

こういうのが好きなのか。あいつは。

ふと、隣に置いてあった売り物の鏡に視線を移した。そこには、物陰に隠れ、ちらちらとこちらの様子を伺っている男たちの姿が映っている。
ジェシンは細布を放ると、のんびりと歩き出した。案の定、怪しげな風体の男たちも後からついてくる。
路地裏に入ったところで、さっと物陰に身を隠し、バタバタと走り込んできた数人をやり過ごす。最後の一人の首根っこを後ろから素早く羽交い絞めにし、くるりと回して民家の壁に押し付けた。喉元を締められた男は、ぐぇっ、とくぐもった声を上げた。チンピラにしてはいい身なりをしている。おそらくは、どこかの両班の私兵だろう。

「言え。誰に頼まれた」

男は、苦しげな息を漏らすだけで答えない。ジェシンは男の喉を押さえつける腕に更に力を込めた。

「さっさと言え!さもないと……」
「兵、兵曹判書だ!」

絞りだすような声で、男が言った。

「兵判が何故俺の後をつける?」
「ち、違う!あんたをつけてたんじゃ……」
「じゃあ誰だ!」
「女みたいに綺麗な顔した、学士だ。べ、別に何かしようってわけじゃない。ただ素性を探るように言われただけだ!」

テムル?

ふっと力を抜いた隙に、男はジェシンの腕を振り払い、あたふたと逃げていった。
兵曹判書までが捜索の手を伸ばすとは。
ジェシンは通りに出てユンシクの姿を探したが、浅葱色の道袍はついぞ見つけることはできなかった。

「あいつ……本当に何者なんだ?」

男装の儒生、キム・ユンシクに対する謎は、深まるばかりだった。




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あまるですどうもこんにちわ。

は~。本日ついに最終回でした。オクタッパン。
地下ブログの方、更新しなきゃ~とは思ったんですが、もーしばらくダメっぽいです。
なんかとにかく泣けて泣けて。まともな文章書けそうにないっス(T_T)
でもソンスはダイジョブだったので、こちらは更新(笑)
今回はストーカーコロたんです。

オクセジャはもうちょっと時間たって冷静になったら、地道にアップしていくつもりですので、
あちらも覗いてくださってるかた、もちっとお待ちくださいね~って、
誰も待ってないかもだけど(笑)

細かい突っ込みドコロは多々ありましたが、ラブストーリーとしては最高のラスト
だったんではと思います。ゆちょもジミンちゃんもほんとーに良かった!
OST聞いただけでしばらく泣けると思います、ワタクシ(^^ゞ
早くDVD出ないかな。もー出たら速攻買い!です。ほんとオススメ!

どーやら7月あたり、スカパーで放送始まるらしいですが(でもKNTVってch契約料バカ高い
んだよな……月3,780円って、よくばりパックと変わんねぇし(^^ゞ)
DVDの発売と重なったら、またカットの嵐なんだろーな~。うーん悩みどころ。




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2012/05/25 Fri. 03:41 [edit]

category: 第八話

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2012-05
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